「ねぇ……あたし達の家系って、どんな風にあんた達の役に立つの?」

 グラスを手にしたまま窓辺に立ち上がったラヴェルの背中に、あたしはチェストから問い掛けた。

「ツパイが所属する【癒しの民】の乙女は、ヴェルに広がるラヴェンダー畑から『薬効』を抽出する。それとジュエル継承者の血液を混ぜることで、悲しみや苦悩を癒す力になる。テイルやアイガーに処方したのがそれだった」

 そう一息に言ったラヴェルはこちらに振り向き、ガラス窓に寄り掛かった。

「タラの所属する【彩りの民】の乙女は、同じくラヴェンダーから『色素』を抽出出来る。それとジュエルを研磨した粉を合わせることで、継承者に蓄積された(おり)を浄化する。自分の作業室には義眼調整の際に出た粉末が飛び散っていたから、タラにはそれを集めに戻ってもらったんだ。その色粉を髪に浴びることで、自分の堆積物をリセットした」

 ああ、だから……やっぱり実際には髪を染めたっていう訳ではなかったんだ。髪色が戻った時、ラヴェルの疲労もリセットされた。確かにそんな精気に満ちた雰囲気ではあった。

「それじゃ……【薫りの民】は?」

 そこで一旦口をつぐみ、ラヴェルはシャンパンを飲み干した。あたしはおかわりを注ぎに立ち上がって、続きを催促する言葉を投げ掛けた。

「……君の所属する【薫りの民】の乙女は、ラヴェンダーから『香料』を抽出する。それと継承者の涙を合わせ、アロマオイルやキャンドルを作れば、その香りは人々に優しい気持ちを与える」
「優しい……気持ち」

 それでも悪に満たされたウェスティの涙と合わせたら、その香りは人々を悲しみで包み込んだのだろうか?

「あたしの母さんも、香水を作ってたんだ……あの、あたしもいつか、ヴェルに行けるのかな?」

 母さんの、おじいちゃんの故郷。行ってみたい気持ちがした。なのにラヴェルは──。

「君は行かない方がいい」

 ──え?

 そう言ったラヴェルの瞳は、哀しいほど暗い色をしていた──。