──こんな奴と、二人きりじゃなければね……。

 と、あたしは背中に感じた幽かな悪寒に、恐る恐る振り返った。

「ユーシィは、やっぱり何度も飛行船に乗ってるんでしょ?」

 メチャメチャ近い真後ろに、片膝をチェストに乗せたラヴェルの顔があった。

「あ、あのねぇ~! 前置きもなく、他人(ひと)の背後を獲らないでくれる!?」
「んん?」

 こいつは誰にでもこうなんだろうか?

「近いって言ってるのよ! まったく……あ! そんなことより、あんた何で落ちてきたのよ?」
「ああ……それは」

 あたしが犬でも追っ払うように右手を振ると、さすがにラヴェルも後ろへ下がり、ストローでグラスの中身を飲み干した。

「ちょっといい調子で上昇気流に乗り過ぎちゃってね、そこに別の気流がぶつかって来て……で、失速した」
「よ、良くそれで、ココまで無事でいられたわね……」

 飛行船はとにかく驚くほどデリケートな乗り物だ。簡単に風に(あお)られて、そのバランスを持っていかれてしまう。この船はヘリウムガスだから損傷だけで済んでいるけれど、昔のように水素だったら大爆発を起こしかねなかった。