「あの髪色、似合ってたのにね」

 意外なことに、先に口を開いたのはラヴェルだった。

 あたしはタラのようにキッチンでアルコールを物色し、シャンパンとそれに見合うグラスを二つ手にして、ラヴェルの隣に腰掛けた。

「街へ出られたら髪染めを買うわ。この色も嫌いじゃないけど、今はあの色に戻したい。それより、ね、これ開けて?」

 あたしはシャンパンボトルをラヴェルに手渡した。ポンッと軽快な音を立てた瓶の口から、シュワシュワと涼やかな音が流れ、透明な液体が注がれた。

「次に行くのはちょうど街だよ。城砦に囲まれた海沿いの綺麗な街。ところで……何に乾杯する?」
「全てを知ったお祝いに」

 その言葉に一瞬ラヴェルの義眼が揺らいだ。相変わらず自分自身の右眼は強張ったままだ。

「そうだね……乾杯」

 細身のシャンパングラスが静かに重ねられる。あたしは一気に半分を空けた。

「その街で何をするつもりなの? 前に言っていた「『あれ』は今後やってもあと一回だから」って奴? それで本当に終わりになるの?」

 いきなりまくし立てたあたしに、少し驚いたような眼差しが返された。ごめん……助けてもらったのに、まだお礼も言えてないのに──まるで責め立てるような言い草だ。