黒いマントに包み込まれた、風になびく白いドレス。

 嘘であれば良かったこと全ては……全て真実だった。

 あたしのこの十年は何だったの? ウェスティへの憧れは? お礼を言う日を夢見て頑張ってきたことは? そして……あたしの目指す楽園は? ──もし受け入れていれば、それは地獄、だった。

 瞳の表面に浮かんだ涙は頬を伝わずに、自分の真後ろへ飛ばされてゆく。

 やがて満月に寄り添うように浮かんだ飛行船が見えた。無事だったんだ、飛行船も!

「これにてフルムーン遊覧飛行は終了デース! お疲れ様でしたー!!」

 開かれたハッチへ淀みなく吸い寄せられるグライダー。格好良く飛び降りたタラさんの元気の良い一言と、あたしを優しく降り立たせたラヴェルの、少し遠慮がちな幽かな微笑み。

 そして──。



「おかえり、ユーシィ」



 目の前に差し出されたあいつの掌に、グッと口元を引き結んだ。

「……た、ただいま……ラっ──」

 ごめん、またあたしはあんたの名前を聞かせてあげられない。

 雪崩(なだ)れ込んだラヴェルの胸の中で、返事は嗚咽に変わってしまったから──。



      ◆第五章◆選ぶべきは・・・どっち!? ──完──