「お願い……助けて……」
「好い声で()くじゃないか。助けだなんて……これも助けであるのに。どうして受け入れない?」

 違う……こんなの望んでいない!!

 あたしは柱にすがりつきながら、にじり寄るウェスティに怯え身をすくめた。もう……ダメなの? ちゃんと「ピータン」と叫んだのに、ラヴェルは来てくれないの!?

「おまたせ、ユーシィ」

 ついに観念と瞼を伏せようとしたその時、頭の上から懐かしい声が聞こえた。慌てて空を仰げば、柱の真上に、マントをたなびかせるあいつが居た!!

「あ──」
「ウル? まさかこんなに早く現れるとはな」

 天幕の真下に居るウェスティにはラヴェルの姿は見えていない。そっと隣に降りてきた彼は、あたしを強く抱き寄せ、淡い微笑を鋭い目つきに変えてウェスティを睨みつけた。

「彼女はあなたの花嫁じゃない、スティ」
「そうかな? ジュエルが彼女を選んだのだ。ジュエルの花嫁は──私の花嫁だよ」

 歩み寄りながら発する彼の言葉は自信に満ちていた。おもむろに自分の髪に手を寄せ、数本を引き抜く。それにフッと息を吹き掛けたと思うや……それは……あの化け物に変わった!!

「ザイーダぁ……ウルを殺せ! ユーシィは生け捕りだ……もちろん傷つけるなよ」

 聞こえたのは昨夜の低い(かす)れた声。聞こえてきたのは──ウェスティの唇。

「あっ、ああっ」

 嫌だ……あの黒い毛むくじゃらも、あの黄色い眼も……!
 コワイ、こわい──!!

「ごめん、ユーシィ。嫌な物を見せた……行くよ、自分にちゃんと掴まってて!」
「え……?」

 腰に回されたラヴェルの腕が更にあたしを包み込んだ。ザイーダが襲いかかる寸前、あたしごと背後へ倒れ込んで、眼下の森へ……落ちる!? 気流は上昇して味方をしてくれるつもりはないらしく、重力に操られるしか他なかった。見えるのは抱き締めるラヴェルの首元だけ……このままじゃ枝にバウンドしても地面に叩きつけられて死ぬしかない。なのに後を追うように飛び降りてきたピータンが、あたしとラヴェルの間に滑り込み──。