が、慌てて返事をした顔をそちらに向けた途端、右頬が広い掌で包まれた。

「抱き締めても……良い?」

 ええっ!?

 逆側の腕があたしの背とソファの間に割り込み、腰の辺りに巻きついた。いきなりの展開に驚きは声にならないまま、ウェスティの懐に引き寄せられてしまった。

「あ、あのっ、困ります~」

 恥じらうように彼のサイドへ手を当て逃げようとする。なのにウェスティの両腕はいつになく(かたく)なだった。

「少しの間で良い……君の香りを感じたい」

 ゆっくりと()し掛かる大きな影。後ろへ傾いたあたしの身体は結局ソファに押し倒される形になって、一緒に降りてきたウェスティの(おもて)は、一定の間隔を保ったまま、あたしの真上で微笑んでいた。

 流れる漆黒の髪が、雨のように降り注ぐ。

「ごめん……本当に少しで良いんだ。【薫りの民】の香りは、王家の者にはとても魅惑的でね」

 耳の真下にウェスティの顔が近付き、鼻先を首筋に撫でつけながらスウっと息を吸う。

 そして──

 それは……あの昨夜感じた『スティ』の仕草そのものだった!!

「ピ……ピータン!!」

 驚愕と恐怖で金縛りに遭いそうな唇を、それでも何とか動かし叫んでいた。

 ツパイは……嘘をついていなかった……──。

 突然溢れ出す大粒の涙。

 ラヴェル……助けて!!

 あたしはウェスティの上着を握り締める両手に力を込めた──!