それからあたしは渡された寝着には着替えず、サイドテーブルの引き出しに見つけた小さな冊子へ、ツパイから聞かされた物語を書き出した。

 箇条書きにされたそれを見詰めて、何度も心の中で呟いてみる。更にその内容から幾つかの質問文を作成し書き留めた。今度はその文章を(そら)んじる。小一時間もした頃、ピータンが不思議そうに瞳をクルクルさせ、そんなあたしを眺め始めた。あたしは苦笑いをうっすらとした微笑みに変えて、何気なく一組の窓を押し開いた。

 涼しげな初夏の夜空に大きな月が浮かんでいる。いつになく光が強く感じられ、周りの星はその存在を搔き消されていた。真円の月光が流れ落ちる眼下には、眠りについた静かな木々。その間には……ラヴェルが潜んでいるのだろうか? 窓辺に立つあたしの影は、彼の瞳の映す中に在るのだろうか?

 あたしは助けられるべきなの? それとも此処があたしの居るべき場所なの?

 声に出して問いたかった。──誰に? ラヴェルに? ウェスティに??

 二人に訊いても、どちらが正しいかなんて判断出来るのだろうか?

 それでも──今はそれしか方法がない。

 決意するように背筋を伸ばすと、後ろからピータンが「行こう」と誘うようにあたしの肩に留まった。そうね……やってみるしか他にないのだ。



 ──行くよ、ラヴェル。



 あたしは森に紛れているかも知れない彼の許へ、念を送るように瞳を凝らし、ピータンと一緒にテラスを目指した──。







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