「最後に一つだけ」とツパイはゆっくり念を押した。ピータンは再び眠そうに瞼が閉じようとしている。

『ウェスティに……唇だけは許さないでください』
「えぇ!?」

 いきなりの意外な発言に、大きな驚きの声がピータンを上下に浮かび上がらせた。

「そ、そんなこと……も、もちろんしないってば!」

 あたしはつい頬を赤らめて、激しく左右に首を振った。幾らこの十年憧れてきた相手だからと言って、そう簡単にキスなんてしない。……あーでも……前科があったな……ラヴェルからの急襲。いきなり襲われたら、避けられる自信は正直ない。

『余りお話したくないことですが、実はジュエルの力を得た者のキスには、他人を操る力があります。ほんの僅かな時間ではありますし、一人に対してたった一度だけですが……でももし貴女が口づけをされた後、ウェスティの魔法によって求婚を承諾してしまえば、それが心からの望みでなくても契約完了となってしまうのです。ですからどうか口づけだけは何とか回避してください』
「操る……」

 そして「余りお話したくないこと」というツパイの言い出しに、あたしはほんの少し衝撃を受けた。ラヴェルも……もしかしてそのつもりでキスしたのだろうか? あの時あいつの契約に即答して、直ちに旅が始まったのは、あたしも操られたからなんだろうか?