「いや、でも君の碧い瞳には、とても似合っていると思う」

 同じように頬杖突いたラヴェルが、目の前で温かみのある笑顔を向けていた。

 あたしは一瞬鼻の頭に熱を感じたけれど、どちらも否定するかのように首をプルプル振るわせる。スープボウルを抱え、赤面した顔を隠すように口を付けて飲み出した。──まったく……こいつと二人きりなんて、どうにもやりづらいわ。

 この髪色は正直嫌いじゃない。でもこのままじゃ、きっと『あの人』はあたしに気付いてくれない。

「別に……あんたの髪もあたしのも、その内伸びれば落ちちゃうでしょ」

 漆黒と薄紫なんて『あの人』の色に出逢った所為か、やたらと思い出してしまうことを少し気まずく感じながら、あたしは投げやりな返事をした。

「名前……呼んでくれないんだね」
「え?」

 幽かに寂しさを感じる台詞に驚いて、慌ててボウルをテーブルに戻した。

「だ、だって、別に此処にはあたし達しか居ないのだし? 呼ばなくたって分かるでしょ」

 “まあね” ──そんな応えが聞こえてきそうな伏せられた瞼を見詰めて、ふと疑問が湧き上がる。

「そう言えば、ずっと独りで旅してるの?」

 それから、おもむろに瞼は開かれた。

「いいえ。もう一人居ますよ」
「え? もしかして、モモンガの数え方も知らないの? 一人じゃなくて一匹でしょ」

 ラヴェルから寂しい雰囲気は消え去って、再び今までのにこやかな笑顔が戻ってきた。あたしは何となくその続きを訊けないまま、いそいそと残りの食事をたいらげた──。







■もちろん彼の髪色がこんな状態なのには他に理由がございます。どうぞお楽しみにしてください。
(本来のラヴェルはこちら↓)