『或る夜、王宮で寝付いたラヴェルは、ついに結界を破ったウェスティに、ジュエルを(えぐ)り取られました。ジュエルの力を取り戻した彼は、まずラヴェルとタラ、そしてその数年前から王家に仕えていたこんな僕さえも葬ろうとした……ラヴェルは拮抗する力で何とか抑え、ウェスティはその場から逃げ出しました。そして再び国を出て……再び……「種子狩り」を始めたのです』

 眼も唇も指も……もう震えることしか出来なかった。もしそれが本当なら──ああ、そうなんだ……きっとテイルさんの息子のレイさんは三家系の中のいずれかで、そして王家のロガールさんも、継承者を生み出せる年齢の息子さんを奪われた。もし……もし本当ならば、だ。だけど……例え嘘でも……こんなの辛過ぎる──。

『ラヴェルはウェスティを追いながら、家族を失った民を癒すことにも努めました。そうして旅の途中で貴女を見つけた──ジュエルの「記憶」は受け継がれます。ですからウェスティがジュエルを通して見た八歳の貴女を、ラヴェルは知っているのです。そして……貴女の両親が亡くなった顛末も──』
「うっ……うう……」

 揺らぐ眼から涙が溢れた。食い縛った唇から言葉が洩れた。その両方を掌で抑えつけたあたしは……もう動くことすら出来なかった。

『二度目の事件でタラと僕を守り通したラヴェルでしたが、その間にザイーダは彼の自宅を襲っていました。両親と祖父を……失ったのです。彼は貴女と同じ苦しみを背負っている……けれどラヴェルは……貴女から肉親を奪った事件も、今回の事件も、自分に非があると……自身を……責め続けています──』

 あたしは何も答えられなかった。途切れたツパイの言葉の後、ただひたすらにあたしの嗚咽が、激しく侘しく室内に響き渡った──。