『同時にラヴェルも物心が付く頃には、やはり表向きは新しい継承者となるべく、王宮通いを求められました。本来ならば継承者としての御印(みしるし)が現れた時点──誕生直後に城へ移される筈でしたが、ウェスティを隠して目論(もくろ)む王と、愛すべき息子を手放したくないラヴェルの父が、それぞれ別の理由を抱えながら同じ結論に到った故でした。こうして日々ウェスティと接した二人は少しずつ、けれど着実に彼の罠に嵌まっていきました』
「罠……?」

 あたしの洩らした疑問に、ツパイは一つ咳払いをした。

『元々ラヴェルはとても複雑な環境に身を置かれていました。母親が王家の出身であるとは云え、デリテリートの息子となりながら、継承者の姿で生まれてきた訳ですから、周囲は戸惑い、彼の処遇に困ってしまったのです。彼には親しい友も出来ませんでした。先を期待して露骨に上げへつらう者もいれば、どうして王宮に引き籠らないのかと罵倒する者もいた……それでもまだそのように接触を図られるのはマシな方で、殆どの人間は「触らぬ神に祟りなし」と彼から距離を置きました。彼に人としての愛情を注いできたのは、両親と祖父、国民に向けては花嫁候補と偽りを流された、姉のような存在だったタラと……そしてウェスティだけだったのです』
「そ、んな……──!」

 そんなことって……それじゃあ、あいつがあんまりじゃない!!

 思わずピータンの座るテーブルの端にしがみついてしまった。あんなに人懐っこそうなあいつなのに……いや……だからこそ、あんなににこやかで淋しい笑顔をするの? 
 
『今のユスリハの反応、ラヴェルが見たら嬉しく思うことでしょうね……ですが、続けますよ。ウェスティはラウルにウル、タランティーナにティーナと愛称を与え、自分をスティと呼ばせることにより、一層親近感を募らせました。こうして孤独なラヴェルはタラと共に、徐々にウェスティに取り込まれていったのです。そんな彼らの楽しい日々に……ついに事件は起こりました』

 事件──あたしはごくりと唾を呑み込んだ。