『王に再び子を得る気持ちがない──要するに、王は新しい継承者を生み出そうとはしなかったのです。最初にお話しましたことは覚えていますか? 王族の男子であれば、誰でもジュエルの継承者を生み出せる要素を持っていますと……ですがその頃一族の中には、三家系の女子を(めと)った青年はおりませんでした。更に水面下ではとある戒厳令が布かれていたのです。王の許以外に継承者が現れぬよう、王族と三家系の婚姻を禁止するという……だからこそ危機を感じたジュエルはラヴェルを選んだのでしょう。アイフェンマイアの血を持つ姫君と、三家系ではなくともジュエルに力を与える存在であった義眼師……七年間王を信じてきた王家の人々は驚いたでしょうね。王が再婚を果たす前に、そんな所から継承者が生まれてしまった訳ですから。そして王も……王自身も操られていることに気付いてはおりませんでした。王は(かくま)った王妃と王子に惑わされていたのです。特に成長するにつれ賢くなる王子ウェスティに……いえ、賢いだけならまだ良かった。彼は非常に狡猾で、他人を(あざむ)くことに()けていました』
「え……?」

 あたしはその後半に耳を疑った。あんなに優しいウェスティが……狡猾?

『ウェスティの花嫁第一候補に立てられたタラは、幼い頃より王妃見習いと称して、城に通うことを命ぜられました。もちろん生まれた時点で、ウェスティが継承者ではないことは一目瞭然でしたので、表向きは後々生まれるであろう新しい継承者に備えてとしてです。王子の誕生が遅れたとしても、僕のようにまた時間を止めれば良い、そんなたてまえの(もと)にタラは……密かにウェスティと同じ時を過ごすことを強要されました』

 タラさんが……ウェスティと……。

 あたしはあの飛行船内で、タラさんの親密そうな台詞と、ウェスティの他人行儀な応対を思い出した。

『強要と言っても、小さいタラにはとても楽しい時間であったようです。ウェスティは優しく、良き兄で良き友で……二人が思春期を迎えた頃には、れっきとした恋人でした』

 トクン……あたしの中で、何かが震えた。