そう言えばこいつの瞳は漆黒で──

「あんたって、随分変わった髪色してるけど、まさかそれ、地色じゃないわよね?」

 ラヴェルの髪は『あの人』の瞳を思い起こさせる薄紫色をしていた。でもどうしてなのか毛先三センチ程だけが黒い。黒く染めていた薄紫色の髪から、染め色が抜けてしまったように。でも薄紫の髪なんて、この世の中に実在しない筈──。

「……ああ、これ……元は黒髪だよ。ちょっとアレンジして、ツートンにしているだけ」
「変わった趣味ね」

 すぐさま返したあたしの答えに、ラヴェルは初めて苦笑いらしき表情を見せた。その時、あのキスされた後のやり取りで感じた変な違和感が……不自然な……何だっけ、これ?

「自分の街では流行ってるんだよ。君だって淡いピンク・グレーだなんて、珍しい」

 そこで掛けられた言葉に、少し前の過去と今の不思議な感覚は、遠くへ追いやられてしまった。

「これはね~夏休みに入ってすぐ、クラスメイトに無理矢理染められちゃったのよ。あたしにはこの色が似合うとかって。休みが明ける前に戻さなかったら、先生から大目玉だけどね。本当の色はかなり白に近いホワイト・ゴールドだから、ブリーチしなくても簡単に染まっちゃう。だからみんな面白がってさ~」

 フォークを置き離した掌に頬を乗せ、瞳を天井へやった。多分あれは唯一の家族を亡くしたあたしへの、友人達の思いやりだったのだろう。元気づけと気を紛らわせる為の……ピンクなんて明るく可愛い色を持ってきたのは、前向きに進ませようとの励ましだったに違いない。