『ラヴェンダー・ジュエルとは常に国を平らかに保つ為、大いなる愛情を必要とします。が、王妃は王家の持つ豊かな資産に目が(くら)み、王に近付いただけの愛のない女性でした』

 ツパイは抑揚のない声で淡々と続けた。早く全てを話さなければ──そのように。

『お互いへの愛が通った果てに生まれなければ、ジュエルの継承者とはなれません。ですから愛のない王妃からは真逆の彼が生まれたのです。ラヴェンダー色の左眼を持ち、漆黒の髪をした……ウェスティが』
「え……? ラヴェンダー・ジュエルはその色なのだから、同じ色の眼ならいいんじゃないの?」

 あたしはピータンに向かって首を(かし)げた。満腹そうなお腹に手をやるピータンも、同じように首を傾げる。

『実状を知らない貴女ならそう思うでしょう。が、ジュエルの継承者は黒い、それも右眼に本来の眼を宿して生まれるのです。そして……髪こそがラヴェンダー色で現れます』
「それって──!」

 ──ラヴェル!?

『はい……実は王には妹君がおりました。王家を継ぐのは男系と決まっておりますので、妹君は何処へでも嫁ぐことの出来る自由な身分でありました。宮廷に出入りしていた王家直属の義眼師──つまりラヴェルの父親と恋に落ち、ウェスティの七年後に生まれたのが、ラヴェルです』

 少しだけ話が繋がった気がした。タラさんがラヴェルに呼び掛けた『ラウル=ヴェル=デリテリート』。デリテリートは義眼師の家の名前なんだ。そして王家アイフェンマイアを継ぐ──彼のお母さんが王家の出身で、継承者としての姿で生まれたから──。