『では……まず。王国ヴェルのことはタラから多少は聞かされましたね? 西の海に存在する僕達の祖国は、他国との交流を持たず独自の世界を築いてきました。隔離されたそんな小さな島国が、ずっと問題もなく平和にやってこられたのは、王家アイフェンマイアが所有する『ラヴェンダー・ジュエル』のお陰でした』

 ベッドサイドに腰掛け、テーブルの上でフルーツを頬張り続けるピータンを見詰めながら、あたしは神妙な顔で頷いた。

『王位とジュエルの継承は男系による世襲です。王族の男子であれば、誰でもジュエルの継承者を生み出せる要素は持っていますが、基本王の許に生まれる傾向にあります。生まれた男子の中でもジュエルに選ばれし者は、特殊な姿をして生まれます。二十八年前、王と王妃が授かったウェスティも、そのような姿で生まれ出でる筈でした……が、彼は真逆の姿で現れました』
「真逆?」

 つい零した声に、口一杯チェリーを詰め込んだピータンがあたしを見上げた。

『はい……彼は愛されざる者として生まれたのです』
「え?」

 ピータンの黒々としたつぶらな瞳が、ラヴェルの黒曜石の瞳を思い出させた──。