ニコニコ顔から放たれた直球を『なかったこと』にするかのように無視して、あたしは「いただきます」と両手を合わせ、手元のパスタを早速口に入れた──瞬間。

「「お、美味しいっ!」」

 え??

 自分の叫びに重なった同じ言葉に驚いて、刹那目線を真ん前に上げる。此処にはこいつしかいないのだし、ピータンがそんな男の声を上げる訳もないので、それは明らかにラヴェルだった。

「いやぁ、このスープ美味しいね。空の旅が続くと野菜が不足気味だから、恋しかったのもあるだろうけれど。味わいがとても深くていい」

 と、ラヴェルは感慨深い息を吐き出して、再びスープに手を付けた。

「そ、そりゃどうも。あんたのパスタもめちゃ美味しいわよ」
「これだけのスープを作る君に、褒められるなんて光栄だね」

 もう一度上げられたお互いの視線がかち合う。微笑みと戸惑い。あたしはラヴェルの嬉しそうな表情が面映(おもは)ゆくて、咄嗟に俯き無言で食事に集中した。

 こいつの言っていることは本当なんだろうか?

 一体こんな男勝りでガサツな女を、何処の誰が好きになるというのだろう……。

 つい自分の仕草と言葉遣いに、そんなことを思ってしまう。格好さえもシンプルなシャツとパンツに、工具をいつでも手元に置けるようにと、長細いポケットの並んだショートエプロンといったいでたちなのだ。それでも唯一髪だけは伸ばして、頭上から結わえた後ろ姿は女性らしいのかも知れない。けれど長髪の理由はそうありたい為なんかじゃない。小さい頃に母さんにせがまれて伸ばしていた髪。あの時は結ばず流していたけれど……それでもそれが『あの人』と、再会する為の目印になると思うから。

 そして『あの人』の美しい艶やかな、長い黒髪への憧れもあった。その髪の隙間から見詰めてくれた宝石みたいな瞳。あの漆黒の髪と薄紫色の瞳だけが『あの人』を探せる唯一の手掛かり……漆黒……薄紫?