約束通りピータンは部屋で待っていてくれた。と言うよりフカフカのベッドの枕元で、我が物顔で眠っていた。支度を済ませ、一言声を掛けて待合室へ急ぐ。扉を開いた途端に何処からか涼やかな鈴の音がして、一分もしない内に正装したウェスティが現れた。その音色で入室の有無に気付けるようになっているらしい。

 美しい黒髪を映えさせる質感の違う黒衣は、繊細な刺繍が施され、まるで何処かの王子様のようだった。あ……本当に王子様なのかしら? 彼はヴェルの王家の出身だと言った。そして……それはラヴェルもなのだろうか? “今からでもアイフェンマイアを継承する道はある” ──ロガールさんはラヴェルにそう言った。

「益々美しくなったね、ユーシィ。きっと君には純白のドレスが似合うと思った。でも……髪は降ろしてもらっても良いかな? あの初めて逢った時のように。そして髪色もね」

 再びドギマギする台詞を投げ掛けながら、ウェスティはあたしに近寄った。細身のAライン・ドレス──湯浴み前に布包みをほどいて驚いたけれど、着替える物がこれしかないので彼の意向に従わざるを得なかった。でも……こんな女の子らしい衣装、あたしに似合っているのだろうか? 飛行船修理のし易いよう、常に軽装ながらも全身を覆う服装を心掛けてきた所為か、長めのスカートとは云え、こんなにデコルテや背中の露出が多いデザインは何だか落ち着かない。

 そんなことを思いながらモジモジと俯いているあたしの前に佇んだウェスティは、おもむろに頭上へ手を伸ばし髪留めを外してしまった。

「あっ!」

 肩に流れる長い髪。それを大きな掌が毛先へと緩やかに滑り、ピンク・グレーに染められている筈の髪が……地色のホワイト・ゴールドに戻ってしまった!?

「……やっぱり、こちらの方が良い」
「ど、どうやって……!?」

 慌てて顔を上げウェスティを見詰める。ニッコリと細めるその右眼を指差し、

「この『ラヴェンダー・ジュエル』の力だよ」

 その瞳がほんの一瞬、強い輝きを放った──!