「ああ、立ち話もなんだね。とにかく浴室と君の部屋を案内しよう。支度が出来たらまた此処へおいで。眼下に広がる森の景色がとても美しいので、テラスに食事を用意させるから」
「は、はい」

 このまま相対していたら、顔が熟れた林檎みたいになってしまいそうだ。あたしは相槌を打ちながら視線を逸らせて、浴室への道順と内部を説明してくれた彼にしばし別れを告げた。まずは与えられた煌びやかな部屋の、大きく豪奢(ごうしゃ)なベッドの上で緊張を解く深い息を吐いた。

「ピ、ピータン、大丈夫?」

 その声にピョンとポケットから飛び出してくる元気なピータン。とにかくバレなくて良かった! そして無事で良かった~!

「ね、ピータン。これからのこと、ちゃんと理解してね? まずあたしは湯浴みをしてくるから、それまでは絶対此処に居て! 終えたらすぐ戻ってくるわ。それから食事に出掛けるけど、その間も此処に居てちょうだい。ピータンの好きな果物沢山もらってくるから、どうかお願い、分かったわね!?」

 あたしの言葉など聞いてもらえるのか……真剣な面持ちで話すあたしを、それでもピータンは終始その愛らしい瞳で見詰めていた。「絶対お願いよ」と再び懇願して部屋を出る。出来るだけ早く戻る為に、あたしは包みを抱えて回廊を走り抜けた。



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