「こ、これって……お屋敷じゃなくて……お城、ですよね??」
「え? あぁ世の中ではそう言うのかい? 何しろ国から余り出たことがないので世間知らずでね……」

 待機していた馬に乗せられ、十五分ほど走っただろうか。上り坂を見上げた先には如何(いか)にもな白亜の宮殿が(そび)え立っていた。

「まぁ気楽にして。食事の支度が整う間に湯浴みを済ませておいで。それで……良かったらこれを着てほしい。君の為に仕立ててみたんだ」

 馬を下りて城門をくぐる。豪華なエントランスを進み、開かれた荘厳な空間が現れたが、それはまだ謁見の間の前の待合室だと聞かされて、あたしは思わず絶句した。

「あの……荷物は飛行船の中なので助かります。そ、それと……十年前ちゃんとお礼を言えなくて……あの時は本当にありがとうございました!」

 戸惑いながらも差し出された包みを受け取り、勢い良く頭を下げた。特に返事がないので恐る恐る姿勢を戻したが、身体が直立した途端、あの温かな掌があの時と同じようにあたしの頬を撫でた。

「ユーシィ……美しくなったね」
「……え?」

 そんな言われたこともない褒め言葉に、触れられた部分が熱を発した。

「外見だけでなく内面も綺麗に成長したのだね。そんな君に再会出来て、本当に嬉しいよ」

 こんなに柔らかな表情をして、こんなに素敵な言葉を奏でる人が、本当にラヴェルと敵対する相手なのだろうか? 飛行船でのやり取りも昨夜の事件も、全て夢ではないの?