『ウエスト? そう……思った通り君は聡明だね。私の少ない言葉の中から、ちゃんとキーワードを見つけ出してくれた。ウエスト(西)──あれは君へのヒントだったのだよ。私の場所を示すと共に、私の名前を連想させる……正確にはウェスティだけどね』
「ウェスティ……」

 彼の本当の名を呟いて、あたしはハッとラヴェルを見返した。依然厳しい顔色で立ち尽くすあいつが呼んだ名──『スティ』──ウェスティの一部だ。でも……今聞こえる彼の声は音楽のように澄んでいて、昨夕の低い悪意のあるものじゃない。

「スティ……あなたは何処に居る?」
「え?」

 今一度ラヴェルがねめつけ問い掛けた先の、ウェスティの姿を目に入れた。十年前と変わらない美しく流れる黒髪、精悍な姿勢。だけど何処に居るって、其処には居ないの?

『もちろん、これはホログラムであって実体ではない……でも近くには居るよ。彼女を君から救い出す為にね、ラウル』

 確かに瞳を凝らせば、ウェスティの輪郭は時々震えるように揺らいでいた。それでも声はその映像から聞こえていて、あたかも其処に居るみたいだ。そして……救い出すって……誰を? あたしを!?

『ユーシィ、君は騙されているんだ。周りの人間は皆嘘を言っている。『ラヴェンダー・ジュエル』を盗んだのは私ではない……ラウルが私から盗んだのだよ。私はそれを取り戻しただけ……何故なら私がジュエルの正統継承者──ヴェルの王家アイフェンマイアの血を継ぐ者なのだから』
「スティ……!!」

 ラヴェルが初めて吠えるような大声を出した。悔しそうに歪む口元。どういうこと? どういうこと!? あたしはずっと騙されてきたの? そうだ……確かに、絵本に出てきた王様の名はアイフェンマイアだった!