「あのっ、ヴェルの王国って本当に存在するんですか!? あたしてっきりおとぎ話かと……」

 遠い遠い西の果て、小さな小さな島国ヴェル。一年中ラヴェンダーの花畑に囲まれた(かぐわ)しい平和な国。他の国の民は誰一人足を踏み入れたことはなく、王国ヴェルからは誰一人として出たことがない。西の海の何処に存在して、どうやったら行けるのか。誰も知らない、けれど平和で幸せな国と云われる伝説の王国──確かその国の人は、全員『ヴェル』という名を持つと云う。

「まあネ。世の中では寓話みたいにされちゃってるけど、実在するのよコレが。……っと、ユスリハちゃんて未成年? お酒呑める?」
「え……? あ、はい。一応成人しています」

 タラさんはあたしを中央のテーブルに向かわせて、独りキッチンで何やら物色し始めた。見つけてきたのは赤ワインとグラスとチーズ。あの……まだ朝方だと思うのですが?

「ずっとグライダーを乗り継いできたから呑めなくって~。ちょっと付き合って。ユスリハちゃんの訊きたいことにも答えてあげるから、ネッ?」

 そうして「どうせラウルとツパイは大して教えてくれなかったでショー?」とウィンクを投げ、目の前にワインを注ぎ入れた。球面を気持ち良く流れる紅い液体。あたしの心もこんな風に流麗となれるだろうか。

「じゃ、出逢いに乾杯!」

 浴室にそぉっと目を向け仄かに罪悪感が走ったが、あたしはタラさんの誘いに応じることにした。だって……他のパズルは未完成なのだもの。

「そうネー何から話そうかしら? 何が訊きたい?」

 一息に三分の一を同じ色の唇に含んだタラさんは、丸いカッティングボードの上でチーズをスライスし、あたしに勧めながら尋ねた。