「あの……一つ弁解しますが、い、一応襲われかけただけで、襲われては……いません」
「そ? ……とは思ったけど……なら安心したわ」

 ラヴェルの名誉の為にも言っておこう。そして自分自身の貞節の為にも。

 タラさんはあたしの肩を優しく抱いて、ゆっくり階上へと促した。

「あの、彼は何をしに、何処へ……?」

 階段を昇りながら涙ぼくろの色っぽい隣の美女を見上げる。あれはツパイの薬とはまた違うのだろうか。

「あのコは浴室へ行ったの。髪を染めに」
「……へ?」

 あれって染髪剤!? 確かに……戻ったリビングのシャワールームから水の流れる音が響いているけれど、わざわざ髪染めを何処まで取りに行かせたっていうのよ!?

「うちは代々染色家なのヨー、あ! 申し遅れたけど、ワタシはタランティーナ=ヴェル=ハイデンベルグ。長いからあのコと同じくタラって呼んでくれればイイわ」
「タランティーナ=ヴェル……──ヴェル?」

 ミドルネームがラヴェルと同じ??

「ちなみにツパイはツパイ=ヴェル=ユングフラウ。……もう気付いたかしら?」
「……あっ!!」

 ずっとずっと昔の微かな記憶が(よみがえ)り、やがて欠けている何枚もの内の、一枚のパズルがやっと完成した。小さい頃、母さんが読んでくれた絵本に、そんな名前の王国があった──。