「まぁまぁ、ちゃんとたっぷり集めてきたから怒らない怒らない! その毛先見たら十分分かるわヨォー、でも乗っ取られるなんて物騒な話じゃない! てことはもう近いのネ? んで? まさかユスリハちゃんを襲っちゃったワケ??」
「あ……」

 冗談のように推測された直球の質問がまさしく的を射て、つい声を洩らしてしまった。辛そうなラヴェルと、点になったタラさんの瞳があたしに集中する。やがてタラさんはそれを細め、ほんの一瞬険しい面差しを見せた。

「もしかして……ラストネーム、ミュールレイン、なのネ?」
「え!?」

 どうして皆、あたしの名前を言い当てるの!?

「『彼』は【薫りの民】を選んだ、か……まぁ分からなくもないわネ」
「タラ……」

 ほんのりしんみりとしたタラさんの言葉に、切なそうに名を呼ぶラヴェルの声が震える。『彼』って、【薫りの民】って……?

「ヤーネ! アナタがそんな顔してどうするのヨ! とにかく、コレ、渡すわヨ」

 気持ちを入れ替えるように大きな声を上げたタラさんは、藍色のウエストポーチから、以前ツパイが託したような小さな革袋をラヴェルへと放り投げた。

「随分見つけてくれたんだね……助かるよ、タラ」
「そうヨォ~床板の隙間までまんべんなく探してきたんだから! お礼のキスくらいホッペにしてくれたってイイもんだわ」
「それは……全てが終わった時かな」

 ラヴェルはおどけた返しに、やっと少し笑みを見せる。

「相変わらず出し渋るわネン! 何でもイイから早く行ってきなさいって。ワタシ達はリビングで待ってるわ」
「うん……ありがとう」

 あいつは革袋をギュッと握り締め、いつもの淡い微笑を(たた)えてあたしの横をすり抜けていった。