「タラ……ユーシィまで殺さないでくれ……」

 ギュッと抱き締められたタラさんの胸の中で、呆れたように(いさ)めるラヴェルの声が聞こえた。

「ユーシィって言うの? あ、きっと違うわね? うーんと、ユリシア? ユーシェルヌ?? いえ、ちょっと待って~どうせラウルのことだから、本名は違うんでショ!」

 と考え込む為に唇に指先を持っていかれたお陰で、あたしもやっと解放された。

「ふぅ……はぁ……ユ、ユスリハです。タラさ、……ん? ラウル??」

 ラウルって誰? ラ・ウ・ル……『ウル』!?

「ヨロシクネーユスリハちゃん! で? ちょっとラウル、アナタ自分の彼女に本名明かしてないってどういうことヨ!?」

 本名──確かにラヴェルはあたしユスリハをユーシィ、ツパイをツパと少しずつ変えて名前を呼ぶ。それじゃラヴェルもラウルで……もしかしたらタラさんも??

「タラ、残念ながらユーシィは彼女じゃない。それに本名なんてどうでもいい。それより少しは集められたの? もう……限界だ。昨夜スティに身体を乗っ取られた」

 ラヴェルは悔しそうに俯いて唇を噛んだ。『スティに身体を乗っ取られた』──やっぱりラヴェルはウルなんだ。ではスティは? 彼の別人格なんだろうか?

 タラさんはそんな彼の様子を目の端に入れて、薄っすらと苦笑し小さく口笛を吹いた。

「ふうん~隠すことなんてないのにー。ネェ? ラウル=ヴェル=デリテリートくん! あーそれともアイフェンマイアにしておく?」
「タラ!!」

 いつも飄々(ひょうひょう)としているラヴェルが、完全にタラさんのペースに呑み込まれていた。ラヴェルにも天敵(?)が居るのね。そして……ラウル=ヴェルで、ラヴェル? アイフェンマイアも名前の一種なんだ。