「な、何でもいいわよー。あのスープ、具沢山だからパンだけでも構わないわよ」

 ちなみに『あのスープ』とは、あたしが朝食用に作っていた物で、ラヴェルはもったいないからと鍋ごと此処へ持ち込んだのだ。

「残念ながら小麦を切らしていてね。パンはしばらく作っていないんだ。パスタなら乾麺があるから……じゃ、それで決まりだね」

 決まりと言うより、他に選択の余地がないのでしょ。

 呆れながらも一つ頷いてみせると、満足したようにキッチンへ戻り、その後ろ姿は二束のパスタを握り締めていた。これから一ヶ月、時には陸に降りることもあるのだろうけれど、こいつとこの密室で二人きりなんて──やはり浅はか過ぎただろうか?

 それでもそれを即決させるだけの力が、あの金貨の量にはあった。育ての親である祖父を失い、何の援助も持たない自分が今後を生きていく為には、飛行船整備しか能のないあたしには、技師になるより他に道がないのだ。その資格を取るには一年専門学校に通わなければならない。卒業しても半年の実践を経なければ国家試験を受けられない。そこまで……あたしには生活費と入学費用と学費、それだけのお金を捻出する必要があった。そして──あたしの『夢』はその先に在る。