「ちょっと……どういうことよ……」

 あたしはお腹の底の底から暗く低い声を吐き出して、目の前でニッコリ微笑む『唐変木(とうへんぼく)』に問い掛けた。

 背の高いそのアホ面に、この世の仇でも見つけたみたいな鋭い視線を上げる。奥歯を噛み締め食い縛り、握った両拳は胡桃(くるみ)ですらカチ割れそうなほど、力が込められていた。

「どういうことかってぇ、聞いてるのよぉっっ!!」

 肩を(いか)らせて、あたしは更に吠えた。こんな大声上げたって、隣の家はずーっと遥か遠くの片田舎だ。けれど内から込み上がるこの怒りを、ヨーロッパのど真ん中とも言える此処から、全世界に発信したいくらいなもんだわ! 本当に……事と次第によっちゃあ、ただじゃ置かないんだからっ!!

「え……えと……あ、ら??」

 『こいつ』もようやく事の重大さに気付いたらしく、やっと笑顔に困惑の兆しを宿し、あたしの様子に瞳をパチクリさせた。でも……あれ? 何だろ……何か、不自然……?

「どういうことかって……自分としては、助けていただいたお礼のつもりなのですけどね」

 そうして気障なウィンクを一つ投げ、先程までの何も考えていないような満面の笑みに戻りやがった。まったく……ムカつくわ……何にって……こんな『朴念仁(ぼくねんじん)』を助けちゃった自分に、よ!