独身主義女の恋と結婚

それから、2週間後、彼が言った。

「セフレやめてもいいか?」

ついにこの時が来てしまった。

いつか来るとは分かってたけど、もう少し一緒にいたかった。

私はあふれそうになる涙をこらえて、

「分かった」

と、それだけを言った。

これ以上、喋ると泣いてしまう。

ここでみっともなくすがる女にはなりたくない。

最後までいい女だったと思われたい。

そんなくだらないプライドのために、私は何も聞かず、彼の提案を受け入れた。

が、その後、彼は続けて言った。

「セフレやめて、夫婦になろう」

……はぁ!?

私は、意味がよく分からず、泣きたかったのも忘れて、その場で固まってしまった。

「ずっと一緒にいて、これだけ心地いいんだから、ここに一緒に住めばいいだろ?」

だって、彼女は?

私は、どう答えていいか分からなくて、彼を見つめる。

「ここの方が都築(つづき)の部屋より会社にも近いし」

それはそうだけど……

「金、土、日、月とこの部屋にいるなら、残りの火、水、木もここにいればいい」

彼の真意が分からない。

「だから、結婚しよ」

えっと……

「だって、彼女は?」

私は、ついに、絶対に聞かないと思ってた彼女のことを聞いてしまった。

「は?」

今度は彼が固まった。

そうよね。
知られてないと思ってたんだもんね。

「彼女って何だよ?」

彼は少し不機嫌に尋ねる。

「隠さなくていいよ。私、会ったもん、先月、ここで。髪が長くて小柄なかわいい彼女」

あんなかわいい子じゃ、私みたいに可愛げのないおばさんは勝てないよ。

「先月って……、まさか、姉さんのこと言ってる?」

彼はキョトンとした顔でこちらを見ている。

「姉…さん? ううん、若い子よ。20代半ばくらいの」

お姉さんなわけない。

「いや、でも、先月、都築以外にこの部屋に来たのは、姉だけだよ。小柄で童顔だから若く見られるけど、36歳2児の母」

「うそ……」

彼の説明によると、結婚して地方に住んでるお姉さんが、子供とテーマパークに旅行に来たついでに、引っ越したばかりの新居を見せろと押しかけて泊まっていったらしい。

金曜の夜来て、土曜日1日遊んで、日曜の昼に帰っていったとスケジュールまで教えてくれた。

「で? 返事は?」

「返事?」

「プロポーズの返事だよ。大事なとこスルーするなよ」

あっ……

でも、そんな突然言われても……

困った私は、ふと大切なことに気づいた。

「だって、好きって言われてないし」

告白すらされてないのに、プロポーズってないでしょ!

私がそう言うと、彼は、くくくっと喉を鳴らして笑う。

「言ったよ。お前が覚えてないだけ。俺は好きでもない女に手は出さないし、付き合ってもいない女は抱かない」

は?

でも、言われてないし。

「最初の夜、帰りたくないって言うお前に、俺はちゃんと告白して、お前はちゃんとOKしたんだ。なのに一晩経ったら、すっかり全部忘れやがって」

えっ!? うそ!?

「だったら、そう言ってくれれば良かったじゃない!」

なんで黙ってるのよ!?

私がじとっと睨むと、彼はふぅ……とため息をついた。

「俺だって怖かったんだよ。お前なら、酔った勢いでOKしただけで、付き合うつもりなんか全然ないって言いそうだろ」

まぁ、あの時なら言ってたかも。

「でも、お前が言ってほしいなら、いくらでも言うよ。美香(みか)、好きだよ。愛してる。一生離さない」

そう言うと、彼は、私の唇を塞いだ。

彼の舌と共に熱い想いが流れ込んでくる。

私は彼の背をぎゅっとしがみつくように抱きしめる。

私も愛してる。

だから、お願い。

一生、そばにいて。





─── Fin. ───


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