独身主義女の恋と結婚

ある週末のこと。

「なぁ、俺、この映画見たいんだけど」

彼は腕枕とは反対の手でスマホを見せる。

そこには動画サイトにアップされた映画の予告編が映っていた。

「ああ、それ、うちの課のユキちゃんが感動したって言ってた」

映画なんて、随分見に行ってないなぁ。

私はそんなことを思いながら答える。

「じゃ、今夜、レイトショーに行こうぜ。その前に食事して」


私たちは、彼の提案するままに夜、外出する。

イタリアンレストランでワインと共に食事をし、その後、映画館でレイトショーを見る。

一緒に感動して、2人で手を繋いで帰宅し、そしてまた、2人で快楽に溺れる。


また、別の週末には……

「久しぶりにテニスやりたくなった。午後付き合え」

ファストフードで軽く昼食を取り、テニスをして汗を流し、ダイニングバーで食事と共にお酒を飲む。


セフレと言いつつ、毎週のように入れられるイベントは、まるでデートのよう。



そんなある日、橘からメールが届いた。

『明日は来なくていい』

不思議に思いつつ、私は久しぶりに週末を1人で過ごした。

掃除して、洗濯して、ぼーっとテレビを見る。

この間まで当たり前だったことが、なぜかつまらない。


会いたい。


日曜の朝、我慢できなくなった私は、彼の家へと向かった。

彼の部屋の前でチャイムを鳴らす。

「はーい」

明るい声と共にその扉を開けたのは、見知らぬ女性だった。

上品なダークブラウンの髪をゆるふわに巻いてハーフアップにし、淡いピンクのフレアラインのワンピースを着ている。

年齢は二十代半ばくらい?

身長は150センチをちょっと超えるくらい?

小柄な可愛らしい、女性というより、女の子っていうイメージの人。

「あの、どちら様? なおくん、今、コンビニに行ってて。すぐに戻るはずなんですけど」

彼、橘 尚之(たちばな なおゆき)のことを、なおくんって呼ぶこの人……

「あ、ごめんなさい。部屋番号を間違えたみたい。失礼しました」

私は、逃げるようにその部屋を後にした。


彼を名前で呼んで、留守番をしてる人が、ただの友達のわけがない。

でも、セフレの私には彼を責めることはできない。

だって、明らかに本命は彼女なんだから。


私は、自宅に戻ると、1人泣いた。

私はバカだ。

失恋して初めて自分の気持ちに気づくなんて。

来週から、仕事行けるかな?

彼と顔を合わせられる?

私はバカだ。

仕事より大切な人がいることに今まで気づかなかったなんて。