「な、なあ、一回だけハグしてもいい?」

焦った声で尋ねられ、涙と鼻水でぐしゃぐしゃな私は言葉にならないまま自分のハンカチで顔をごしごしこすった。メイクなんか台無しだ。それでもいい。

そっと両手を広げると、瑛理の力強い腕が私を抱き寄せた。
瑛理の匂いだ。瑛理の体温だ。
私、瑛理と抱き合っている。

名前を呼ぼうとしたら、即座に身体を離された。びっくりしている私の目に、またしても首まで真っ赤になっている瑛理の姿が映る。
ものすごく困った顔をしていた。

「ありがと、柊子」

そんな顔をしてしまうくらい私へ気持ちがあったの? 私のこと想ってくれていたの?
知らなかったよ、私。瑛理の気持ち、全然知らなかった。

私たちはそこから照れてお互い喋れなくなってしまった。ただ離れがたくて、手を繋いでゆっくり歩いた。
私も好きだって言いたかった。言えばよかったのに、私も瑛理もちょっとしたパニック状態で、それ以上は本当に会話にならなかった。
瑛理と過ごしてきた二十五年間、こんなに嬉しくて緊張した時間はなかった。