「河東くん、変な言い方だけど、それは私を口説いてる男性の言葉じゃないよね」
『え、そう? 俺だって高校の頃から柊子ちゃんのこといいなって思ってたから、最初はずるーい!って思ったよ。今も、まだチャンスがあるならって飛びついてるんだ』

そんなことを言いながら、河東くんの態度は完全に私と瑛理を応援している友人のものだ。
瑛理に逆恨みされる理由なんかないほどいい人。私と瑛理に振り回されていないで、早く素敵な女性を見つけてほしい。

『ともかく、志筑も相当焦れてるみたいだし、一度会って話した方がいいよ。柊子ちゃんは志筑のことが好きなんでしょう』
「私はもう会っても仕方ないと思う。性格の不一致は明らかだし、瑛理は気持ちが通じない夫婦でいいと思ってるみたい」
『いっそ、柊子ちゃんの気持ちを素直に伝えてみたら?』

それは好きだと伝えるってこと? 私は力なく笑った。

「無理だよ。疎ましく思われるだけ」
『え、でも柊子ちゃんは離婚したいんでしょ。なら、疎ましく思われたって今更じゃん。ずばっと振られた方がお互い離れる理由ができるよ』

そうかもしれない。結局、瑛理に気持ちを伝えないのも、未練をもって結婚してしまったのも、私の弱さだ。
好かれたい。好かれなくてもそばにいたい。でもやっぱりお互いのために別れたい。
こんなふうにぐるぐる考えているのはもう嫌。

「河東くんの言う通りかもしれないね。気持ちをはっきりさせて、離れる理由にした方がいい」
『玉砕したら、俺の出番だ!』
「軽いなぁ」

私は河東くんの明るい励ましに苦笑いをした。
この恋を完全に殺す勇気が出なかった。だけど、そろそろ私も次に進まなければならない。
私に気持ちのない瑛理に、いつまでも縋って生きていてはいけないのだ。