「俺は柊子の味方だから、柊子を優先するぞ」

兄が言った。

「だけど、おまえの気持ちはおまえにしかわからない。この先どうしたいか、きちんと考えろ。そうして結論を出すんだ、瑛理と自分のために」
「ごめんね。兄さん」
「謝るなよ」
「うん、ありがとう」

私はどうしたいのだろう。離婚したい。もう瑛理のことを考えたくないから離れたい。
だけど、本人を前にしてそれを言えるだろうか。
瑛理の綺麗な目に見つめられて、ポーズでもなんでも「そんなこと言うな」「離婚はしたくない」だなんて言われたら、揺らいでしまいそう。

好かれる理由がないのに、それでもまだ好かれたくて。馬鹿みたい。
ひとりになった部屋でベッドに転がり、両手で目を覆う。涙も出やしない。

そこにスマホが振動した。見れば河東くんからの着信だ。
私は受話をタップし、耳にスマホを押し当てた。

『柊子ちゃん、今大丈夫?』
「大丈夫」

河東くんは私と瑛理の仲違いを知っている。何しろ、私の恋心を知って心配をしている唯一の存在で、さらには瑛理との亀裂の遠因でもある。

『実は今日の昼間、志筑が俺の会社を訪ねてきてさ』
「ええ!?」

私は驚いて叫んでしまった。瑛理のヤツ、ちゃんと仕事しているのかしら。兄のところにも行ったというし、休みでも取っているの?