門の前に瑛理がいる。私はそれがわかっていて出ていかない。代わりに母が出て行って、瑛理に謝っていた。瑛理は頭を下げて帰っていく。
これで三日目だ。

私は瑛理と会うつもりはない。

兄には瑛理と別れたいと思っている旨を伝えた。両親と祖母には喧嘩をしたので、今は会いたくないとだけ伝えてある。兄は私の意思を尊重し、瑛理とは会わせないと言ってくれた。会社は兄の運転で父と一緒に行くようにし、帰りの時刻もなるべく合わせる。
瑛理からは何度も連絡が入ったけれど、返していない。

結婚したのに親や兄弟まで巻き込んでこの態度、格好悪いし子どもっぽいと思う。
だけど、瑛理のポーズだけの思いやりはもうたくさん。
所詮、瑛理にとって結婚相手などだれでもいいのだ。手間がかからなくて、気を遣わないでいい相手なら。

今はきっとさぞ面倒なことになったと思っているだろう。
だけど、体面を気にする瑛理は、志筑家と古賀家のために私に謝る。そういう処世術だけは抜かりないのだ。

『おまえは本当に面倒くさいな』

あの言葉に瑛理の気持ちが集約されている。
おとなしく結婚生活を続け、愛だの恋だの言わないでいれば、仕事に集中できる環境ができたのに。瑛理からしてみれば、その計画を私がぶち壊しているように思えるのだろう。

だから、私は徹底的にこの結婚を壊すことにした。
もういい。瑛理とは終わりにする。
そもそも同居してしまったら、私ばかりが気持ちを募らせつらくなるのが目に見えていた。よかったのだ、このタイミングで関係が壊れて。