しかし俺の一番の失策は、この場で追いかけなかったことだった。

その晩、俺は古賀家を訪ねた。いろいろ納得いかないことも多いし、河東との件は考えれば考えるほど腹が立つ。しかし、このまま柊子と仲違いしているわけにもいかない。柊子は同居しない、離婚をすると言っているのだ。

柊子本人のメッセージアプリに【話がしたい】と送ったのも、腹を割って話すべきだと感じたからだ。
場合によっては、俺は秘めていた想いを伝えなければならないかもしれない。柊子の心が俺にない以上、それは余計柊子との距離を生むかもしれない。しかし、もし柊子がに情があれば、考え直すきっかけになる。

しかし、メッセージに既読がつくことはなかった。
焦れて直接会おうと古賀家に赴いたところ、門のところまで出てきて応対したのは邦親さんだった。
邦親さんの眼鏡の下の目は鋭い。俺はすぐに事態を察した。

「邦親さん、柊子に……」
「悪いが瑛理、帰ってくれないか」

邦親さんは怜悧な口調で言った。

「柊子は詳しくは語らない。だけど、瑛理とは同居しないし、近いうちに離婚をしたいと言っている。まだ俺しか知らないが、近いうちに両親や祖母にも話すだろう」
「邦親さん、柊子と直接話をしたいんです」
「柊子が会いたくないと言っている」

厳然とした声音に、俺は言葉をなくした。一番敵に回してはいけない人が敵になったのを感じた。邦親さんは柊子を溺愛している。