「付き合ってるならそう言えばいい」

思わずそんな言葉が口をついて出た。柊子が軽薄なことをするとは思えなかった。
しかし、柊子のスマホに表示された名前を見て、それが旅行のときも見た河東の名だったことに愕然としてしまった。

「柊子が離婚したい理由が、そういうことなら俺も考えないでもない。まあ、むかつくから河東と話はするけどな」
「待って、河東くんとは付き合っているとかじゃないの」

柊子が焦ったような怒ったような口調で反論する。

「本当に相談相手なんだよ。友達として親身になってくれていて」
「あのさ、それを額面通り受け取って、河東の言葉を信じてるなら、柊子は馬鹿だからな」

俺は苛立ちのまま言った。

「相談にかこつけて連絡とるなんて、常套手段だぞ。おまえは隙の塊だからな。あっという間に河東につけこまれる」
「やめてよ、そういう邪推。本当にそういう関係じゃないんだってば」
「隠れて連絡取り合ってるうちに、盛り上がることもあるしな」

柊子が俺を見上げ、信じられないというように顔をゆがめた。それからぐっと奥歯を噛み締めるのが見てとれた。

「瑛理こそ、どうなのよ」

かすれた声が聞こえる。

「偶然、デパートで後輩と会う? それって普通のこと?」
「ああ、……水平は俺を狙ってるって言ってるだろ。たぶん俺と同期の話を聞いて、割り込む目的で来たんだよ。強引なヤツだ」

その水平相手に、へらへらとしていた柊子にも腹が立つ。俺は柊子との休日を守ろうとしているのに、誰でも彼でもすぐに接近を許すのは柊子の悪いところだ。