離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる

古賀家での和気藹々とした夕餉を終え、ショックを胸に抱えながら俺は場を辞した。玄関先まで柊子が送ってくれた。

「兄さん、うまくやったわ」

柊子は俺の心情には気づかずに、うんうんと感心した様子である。うまくやったとはどういうことだろう。

「邦親さんの結婚報告だろ? みんな喜ぶに決まってるじゃないか」
「兄の恋人の瑠衣さんってね、兄より十歳年上なの。だから、今年で四十歳」
「え!?」

そこまでの年の差があると、さっき邦親さんは言わなかった。柊子がにやっと笑う。

「もっと言うと、兄の高校時代の塾の講師なのよ。兄が大学進学と同時に付き合いだしてね。もう交際歴十年以上」
「じゃあ、うちの姉貴と礼さんより……?」
「出会いは同じくらいか、ちょっと早いか。兄からしたら、美優さんの恋愛は願ったり叶ったりだったんじゃないかな。自分も好きな人がいたんだもの」
「年上で、元講師と教え子の関係。……それを認めさせるために、機会をうかがってたのか」

さすがに俺も驚いた。
なるほど、邦親さんは古賀製薬の跡取りだ。生半可な相手では、家族は納得しないだろう。柊子のおめでたいニュースに合わせて親に恋人を紹介し、結婚を認めさせる算段だったのか。相変わらず食えない人だ。

「だから、私と瑛理はもう少しハッピーな新婚さんのふりをしなければならない。……同居は私にも、うちの兄にも都合がいいのよ」
「わ、わかった。邦親さんと恋人のためだものな。俺たちは全力で協力しよう」
「ありがとう、瑛理」

柊子がにっこり笑った。柊子は大好きな兄の幸せをただただ願っていて、他意はないように見えた。
そうか、それならまだチャンスがある。少なくともしばらくは柊子とふたり暮らしができるのだ。柊子との仲を深める時間があるのだ。
俺は心の中で改めて邦親さんに御礼を言った。