離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる

「俺は面倒くさいのが嫌だから、離婚したくないって言ってるだろ。穏便に結婚生活を送っているように見えた方がいい。同居は都合がいいんだよ」

ここで俺が『柊子のことが好きだから、離婚したくないんだ。同居できて嬉しい』と言えれば一番いい。
しかし、それは柊子が俺に多少なりとも好意があった場合に限られる。

柊子が俺にまったく好意がない状態でそんなことを言ったら、ただの下心満載の同居の誘いになってしまう。柊子は警戒するどころか、同居を断固拒否するだろう。
ここはあくまで友人の距離を確保だ。

「柊子となら、友達として楽しくルームシェアできそうなんだけど」

柊子がしばし黙った。

「この前、ふたりで旅行したときも、結構楽しかったもんね」
「そうだな。飲んだくれて潰れて寝たけどな」

いや、実を言うと俺は起きていた。柊子が布団に倒れ込んで寝た後、掛布団をかけてやったのも俺だ。可愛い寝顔をじっくりと眺めたことは内緒の話である。

「私たち、いい距離で暮らせるかもね」

柊子に好かれていない確認になってしまった旅行。今となっては、あの旅行がいい結果につながった。ふたりで長時間過ごしても、お互いに気楽で楽しく過ごせるという前例になったのだ。

「そうだろ。家事は分担してさ」
「一緒に料理作ったりしてね」

柊子が楽しそうに微笑んでくれている。それだけで俺の胸は喜びで弾んだ。
これで柊子と一緒に暮らせる。友達スタートだっていいじゃないか。充分な進展だ。

「この後、マンションまで行ってみないか? 鍵は家から持ってきてるし、姉貴も中を見てくれていいって」
「あ、うん。そうだね。お邪魔しようかな」