『私、いいことを思いついたの』

時節の挨拶などはすっ飛ばし、姉は要件を真っ先に言いたいらしい。

『柊子ちゃんと同居しなさい』
「はあ?」
『手続きさえ終わればすぐにでも』

なぜ柊子の話なのだろう。しかも同居とは?

『私のマンションがあるでしょう。お祖父様からもらったもの。邦親と私の新婚生活用だった上野の公園横の。名義が私で、管理費なんかはお父さんが払ってくれているのだけどね』
「待ってくれ、姉貴。話が見えない」
『なんで? あのマンションを瑛理に譲渡するのよ。瑛理と柊子ちゃんは忙しすぎて新居選びもできていないって言ってたじゃない。でもほら、私の持ちマンションなら購入の手間はないし、すぐに住める。名義変更の手続きに私が書類を送るから、そっちで揃えてもらう書類がちょっと面倒だけど』

誤解のないように言うと、姉はかなりの秀才だ。
おそらく兄弟三人の中でずば抜けた頭脳を持っているし、本人も真面目一直線で勉学に励んできた。
しかし、頭が良すぎるせいか、俺や兄を置いてきぼりに物事を決めてしまったり進めてしまうことも多い。
姉が恋に落ちたときも、そんな猪突猛進な彼女だからこそ駆け落ちが心配だったのだ。

今回も、姉は勝手に考えたのだろう。
俺と柊子が結婚したのに同居できないでいる。姉としてひと肌脱ごう。ちょうど使っていないマンションがあるからお膳立てを整えてやろう。
そんな思考に違いない。