ドアチャイムが響いた。私がインターホンに出るとカメラが思わぬ人物を映した。
『志筑です』
そこにいたのは瑛理だ。息が止まりそうになった。どうして我が家にやってきたのだろう。
「待ってて」
私は短く言い、インターホンを切った。それから家族に向き直り、にっこり笑う。
「瑛理が顔を出してくれたの。迎えに行ってくるね」
予想外の事態だ。玄関まで小走りに駆けていき、勢いよくドアを開ける。
瑛理はドアの外に憮然とした顔で立っていた。百八十センチの長身、綺麗な二重は少しだけ釣り目で鼻筋が通っている。形のいい唇は愛想よく笑顔になっていることが多いけれど、私の前だとサービスはしないとばかりに引き結ばれている。
花束を持っているのは私へのプレゼントというわけではなく、花が好きな私の母のため。この家に来るときは持ってくるのが習慣なだけだ。
「瑛理、急にどうしたの?」
「妻に会いに妻の実家を訪ねたらおかしいのか?」
おかしくはない。別居婚の夫婦が不仲でないなら、双方の家を行き来したところで問題はない。私は焦って瑛理を下から見つめた。
「今日、兄が帰国してきて……ちょうど夕食なの」
「邦親さん、海外出張だって言ってたものな。……もしかして、俺も夕食に招かれてたとか?」
瑛理はにっと意地悪く笑った。察しが良過ぎて困る。私が敢えて声をかけなかったことを見透かされているのだ。
「な、中に入って。よければ、だけど」
「安心しろ。柊子の家族に不仲だと印象づけるわけにもいかないし、適当に話を合わせてやる」
察しがいい分、瑛理はこういったとき迷いなく行動してくれる。割り切りが早いというか。
しかし、廊下を進みながら私に耳打ちをする。
「これは貸しにしとく」
「……わかったわよ」
私は苦々しく呟いた。当面の間、結婚生活を維持させるという点では、私と瑛理も目的は一致しているのだ。
『志筑です』
そこにいたのは瑛理だ。息が止まりそうになった。どうして我が家にやってきたのだろう。
「待ってて」
私は短く言い、インターホンを切った。それから家族に向き直り、にっこり笑う。
「瑛理が顔を出してくれたの。迎えに行ってくるね」
予想外の事態だ。玄関まで小走りに駆けていき、勢いよくドアを開ける。
瑛理はドアの外に憮然とした顔で立っていた。百八十センチの長身、綺麗な二重は少しだけ釣り目で鼻筋が通っている。形のいい唇は愛想よく笑顔になっていることが多いけれど、私の前だとサービスはしないとばかりに引き結ばれている。
花束を持っているのは私へのプレゼントというわけではなく、花が好きな私の母のため。この家に来るときは持ってくるのが習慣なだけだ。
「瑛理、急にどうしたの?」
「妻に会いに妻の実家を訪ねたらおかしいのか?」
おかしくはない。別居婚の夫婦が不仲でないなら、双方の家を行き来したところで問題はない。私は焦って瑛理を下から見つめた。
「今日、兄が帰国してきて……ちょうど夕食なの」
「邦親さん、海外出張だって言ってたものな。……もしかして、俺も夕食に招かれてたとか?」
瑛理はにっと意地悪く笑った。察しが良過ぎて困る。私が敢えて声をかけなかったことを見透かされているのだ。
「な、中に入って。よければ、だけど」
「安心しろ。柊子の家族に不仲だと印象づけるわけにもいかないし、適当に話を合わせてやる」
察しがいい分、瑛理はこういったとき迷いなく行動してくれる。割り切りが早いというか。
しかし、廊下を進みながら私に耳打ちをする。
「これは貸しにしとく」
「……わかったわよ」
私は苦々しく呟いた。当面の間、結婚生活を維持させるという点では、私と瑛理も目的は一致しているのだ。



