「柊子は考えすぎなんだよ」

お祖母さんの家を出て、車で宿へ向かう道すがら瑛理は平気な顔でそんなことを言う。

「でも、愛し合ってもいないし、いずれ離婚するつもりなのに、仲良しのふりして……。おばあちゃまに悪いことをしてしまった」
「でも、結婚したのは本当で、挨拶を欠かせば義理を欠く。そう思ったからここに来たんだろう」

瑛理は冷めた表情で運転をしている。目の前に大きな木の看板が見える。今日の宿の入り口らしい。

「そもそも、柊子の考え方だったら結婚式に招いた全員に嘘ついて悪いことをしたってことになるぞ」
「う、……その通りだ。やっぱり早く離婚した方が……」
「そういう話じゃないだろ」

車が駐車場に停車する。木立に囲まれた豪奢なつくりの建物が私たちの宿泊先だ。見上げて、思わずため息が出てしまった。

「ほら、こい」

玄関にはずらりと出迎えの中居さんが並び、私たちを案内してくれる。
フロントでチェックインを済ませ、案内されたのはおそらくこのお宿でもかなりグレードの高いお部屋だ。この部屋だけの庭園と露天風呂がつき、さらに内風呂とミストサウナもある。
部屋はひろびろとした和室が二間。その気になれば七、八人泊まれるんじゃない?という広さなのだ。

「すごくない?」
「この部屋しか取れなかった」
「絶対嘘でしょ。こういうところにお金かけなくていいって」
「俺が部屋に露天風呂が欲しかったんだよ」