離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる

「瑛理、柊子ちゃん」

門をくぐる前に縁側から声が聞こえた。見ればそこには懐かしい瑛理の祖母がいた。

「おばあちゃま!」

私はあの頃と同じ呼び方をして、思わず縁側に駆け寄ってしまった。瑛理の祖母はしわが増え、いっそう小柄になったように見えるけれど、背筋はしゃっきりとして元気そうだった。

「おばあちゃま、ご無沙汰しています。腰の具合はどうですか?」
「たいしたことないんだけど、東京までは行けなくてねえ。心配かけちゃったねえ。柊子ちゃん、瑛理のお嫁さんになってくれてありがとう」

独特のアクセントの言葉が懐かしい。そのまま話し込みそうな私と祖母に瑛理が声をかける。

「ばあちゃん、今日は挨拶にきたんだから、まずは線香をあげさせてよ」

私もあわてて、玄関から入り直し、瑛理と並んでお仏壇に線香をあげたのだった。

「じいさん同士が孫の結婚を決めてしまうなんてどうかと思ったんだけど」

瑛理のお祖母さんはしゃきしゃきと台所と居間を行ったり来たりして私たちにお茶やお菓子をだしてくれる。

「瑛理と柊子ちゃんはお似合いだねえ」
「あはは、そうですか?」

お似合いと言われて嬉しいような恥ずかしいような。
ちらりと横を見ると、瑛理は面白くなさそうな顔をしている。私とお似合いだなんて不本意かもしれないけど、その顔はないんじゃないの?

「あの頃から、瑛理は柊子ちゃんが大好きだったもんねえ。よかったねえ」
「ばあちゃん、わけわかんないこと言わないでくれよ。俺と柊子は結構仲が悪かったし」

その言葉はまたしてもブーメランよ。私はにやりと笑って言う。

「子どもの頃の瑛理くんはちょっと意地悪でしたもんねえ。私、何度も泣かされたなあ」
「な、それは……!」

お祖母さんは楽しそうに笑う。