離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる

「都内で食事とか買い物が多かったから、こうして旅先で瑛理とソフトクリーム食べてるのって変な感じ」
「それはなんかわかる。非日常感を覚えるな」
「中高の修学旅行、班が違ったしね」
「高校の修学旅行、柊子の班は初日の門限破ったな。全員正座させられてた」

瑛理が思い出してくすくす笑うので、私もやり返す。

「スマホ落としちゃった子がいたんだからしょうがないでしょ。瑛理なんか、宿抜けだして二日目の夜中に正座させられてたじゃない」
「ブーメランだったか。この話題はやめておこう」
「まだまだあるわよ。瑛理の悪事」
「悪事とか人聞き悪いこと言うな。やんちゃだっただけだろ」

そう瑛理はやんちゃだった。周りには学内でも中心的な男女が集まって、いつもキラキラしていて、私は瑛理から目が離せないのに、瑛理はいつも違う方向を見ていて……。

「楽しいね」

気づくとぼそっとつぶやいていた。瑛理と一緒で楽しい。今、私たちは夫婦なのだ。

「この旅行が?」
「んー……来たことない場所だからかな」

ふたりでいると楽しいだなんて、離婚したがっている妻のセリフじゃない。

「俺は柊子といるから楽しいよ」

瑛理の口から思わぬ言葉が出て、私はソフトクリームを落としそうになってしまった。あわてて彼の顔を見る。
瑛理はこっちを見ないで笑っている。

「柊子は幼馴染だから、気を使わなくていい。だから楽しい」

なんだ、やっぱりそういうことか。私は肩を落とし、短く息をつく。