「私も瑛理も二十五歳よ。もう大人だし、そんなに喧嘩しないってば」
「仲良くやっているならいいよ。おまえらふたりの結婚には、俺と美優は頭があがらないところがあるからな」

兄はそう言ってふうと嘆息した。
気にしないでほしい。責任を感じないでほしい。私は兄の前で瑛理とうまくいっていないところを見せたくないし、瑛理と離婚するなら兄が恋人と結ばれてからにしたいと思っている。
車で自宅に帰りつくと、母が玄関で迎えてくれた。キッチンからそのまま出てきたのか手にはオーブン用のミトンがはまっている。

「邦親、お帰り~!」

居間には父と祖母が待ち構えていた。
私の家族は本当にいつまでも仲がいい。古賀製薬社長の父も、後継者の兄も忙しくてしょっちゅう海外出張があるけれど、そのたびにお疲れ様会をやるのだから。
今日の兄の帰国お疲れ様会に、両親は瑛理を呼べと言った。別居しているとはいえ夫なのだし、家族そろって食事できるいい機会だからと。しかし、私は敢えて声をかけなかった。どうせ、瑛理も来たくないだろうし。

兄の好物と父の気に入りのワインで夕食は始まった。大きな洋館だが、たまに掃除をアウトソーシングするくらいで、手伝いの人は雇っていない。食事も料理好きの母がすべて作ってくれる。
夕食はついつい仕事の話が増えてしまうけれど、母と祖母を置いてきぼりにしないように、みんな適宜話題を変える。本当に良い家族だ。だけど、将来的に私が離婚したら、両親は私を困った娘だと残念に思うのかな。