離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる

「牧場!」

お豆腐が美味しくて、ちょっと機嫌が直りつつあった私はその言葉に飛びついてしまった。

「牛とか馬とか羊とか見られるかな」
「規模が小さいけど、見学OKだって。寄っていくか?」
「いいの?」
「途中だしな。ハーブ園は宿の近くだから、明日寄って、お義母さんにお土産を買えばいいだろ」

気の利いたことをぽんぽん言ってくれる瑛理に、さっきまでの怒りを少しだけ忘れる。

「瑛理、考えてくれたの? いいところあるじゃない」
「土日つぶさせて田舎に連れてきたしな。少しは。あと宿はまあまあいいところだから期待していい」
「ごはん美味しい?」
「たぶん」

私は残りのお蕎麦をすすりながら、瑛理を盗み見る。私と瑛理は友人としてならうまくいく。ふたり旅だとか、夫婦だとか考えずに、仲良く過ごせばいい旅行になるのではなかろうか。

「瑛理、せっかくの旅行だし、喧嘩しないようにお互い努力しようか」

私の様子の軟化を感じたのか、瑛理がにっと口の端を笑みの形に引いた。

気持ちを切り替えたせいか、そのあとの車内は気楽な気持ちで過ごせた。瑛理は運転がうまく、カーブのきつい山道もスムーズに流れに乗って車を進める。運転をほめると、瑛理もまんざらでもない顔をしていた。

到着した牧場はさほど大きなところではないけれど、家族連れで賑わっていた。私が畜舎の牛を覗くのを瑛理は横を歩いて付き合ってくれる。意外だ。動物の匂いとか苦手そうなのに。
きっと、私が好きだと思って連れてきたのだろう。
放牧されている羊や、ポニーの乗馬体験コーナーなどを回り、ソフトクリームを購入してふたりで並んで食べた。健全な学生旅行みたい。