離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる

「祖母……。おばあちゃま? わあ、懐かしい」

瑛理の祖母とは子どものころに面識がある。当時は瑛理の家に同居していた。
八年前、瑛理の祖父が亡くなった後に、ご自身の故郷の福島に戻ると移住して行ったのだ。

「おばあちゃまはお元気? おいくつになられたの?」
「八十歳だ。健康そのもので、本当は結婚式も来る予定だったんだけどな。直前で腰を痛めて、長時間の移動は厳しいからと参加を見合わせたんだ」
「それは会いにいかないといけないね」

私も小さい頃は瑛理の祖母に可愛がってもらった。いつか離婚するつもりだとはいえ、結婚のご挨拶をしないのは不義理な気がする。

「少し遠いからどうしても一泊はしないといけない。宿はこちらで手配するから付き合ってくれ」
「わかった! じゃあ、お土産を用意するね。何がいいかなあ」

おばあちゃまは何が好きだろう。ご年齢のこともあるし、食べられないものや控えているものはあるだろうか。
すると、瑛理がふっと笑った。

「おまえ、案外乗り気だな」
「だって、おばあちゃまに久しぶりに会えるし」
「俺とふたりきりで旅行だぞ」

私はしばし黙った。それから、キッと眉を張って瑛理をにらむ。

「別に、瑛理と一緒だなんて慣れっこだよ」

強がって見せたものの、頬は赤くなっている気がする。瑛理は私が誰とも付き合ったことがないと知っている。意識して照れたり困る私をからかいたいに違いない。

「新婚旅行もしてないし、同居もしてない。柊子と二十四時間以上一緒って初めてかもな」
「子どもの頃お泊り会したよ」
「兄貴たちも一緒だったじゃん」
「う……そうだけど。とにかく気にしてないから!」

ワイングラスを傾け、ぐいっと飲む。
瑛理と旅行……。どうしよう、ふたりきりだなんて。
そわそわしながら、それを気取られないように私はワインと食事に集中するのだった。