離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる

「宣戦布告っぽくなかった?」

予約した近くのホテルのイタリアンレストランに、徒歩で向かいながら私は瑛理に尋ねた。というか、あれはもう瑛理の彼女面な気もしたのだけど。

「ああ」

瑛理は少し考えるように目線をそらしてから言う。

「彼女、ひとつ下の後輩なんだけど、入社以来ずっと俺のことを狙ってるみたいなんだよな」
「へ?」

さらりと言われた事実に私は驚いた。そういうこと、仮にも妻に言えるの?
というかモテ自慢なの? うう、もやっとする。

「いまだにしょっちゅう食事に誘われる。結婚したのも知ってるんだけどな」
「へえ、いいじゃない。彼女と交際を考えてみるのはどう?」

私はすかさず言う。だって、この流れはそうでしょう。離婚したい妻と好意を持ってくれる女子。選ぶのはどっち?という話になりそうだ。
途端に瑛理は眉をひそめた。

「残念でした。俺は水平に興味ないんだ」
「ええ? 彼女、すごく可愛かったよ。目おっきいし、顔小さいし。清楚で遊んでなさそうな感じで」
「あれは柊子を意識してるんだよ」

そう言って瑛理は私の髪をさらりと手ですいた。突然触れられてぎょっとしたけれど、自意識過剰に見えないようになにげない表情をする。

「柊子が黒髪地味系だから、合わせてんだよ。狙った男の好みに合わせて容姿変えてるんだろ? 俺の同期が彼女と同じ大学だけど、当時は金髪に近い茶髪で今と全然違ってたってさ。あざとい子って苦手なんだよな」

地味とかけなされた気がするのですが……。
それはそうと、その作戦ってどうなの。