離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる

「なんだ、柊子。視線がエロいぞ」
「ちーがーう! 四月なのに、暑そうに上着脱いでるから、筋肉あると暑いのかなって! それだけ!」
「それは筋肉を見たいってこと? 脱ぐか? 最近、家トレ増やしてるから、見せてもいいけど」
「脱ぐな!」

エロいとか、脱ぐとか言われたせいで、私は真っ赤になりながら怒るしかできない。瑛理はこういうからかうような言動が多い。
どうせ瑛理は女性と付き合ったり、経験したりしてるんでしょうけれど、私は誰とも経験がないのだから放っておいてほしい。
瑛理の背を押し、さっさと食事に向かおうとしたときだ。

「志筑先輩!」

打ち合わせブースに入ってきた女子社員がいる。
背中まである長い黒髪の可愛い女の子だ。制服姿である。

「水平(みずひら)、どうした?」
「お帰りのところ申し訳ありません。一点、確認するのを忘れていました」

そういって、瑛理に書類を見せている。瑛理はどれどれとそれに視線を落とした。ふたりで書類をのぞき込んでいるけど、距離近くない?

「うん、これでOK。でも明日でよかったのに」
「いえ、明日まで持ち越したくなかったので。お引止めしてしまい申し訳ありませんでした」

水平という女子はぱっと瑛理から離れ、私に向き直った。

「奥様、初めまして。水平しえと申します」

そういってペコリと頭を下げる。私もつられて頭を下げた。

「柊子です。しゅ、主人がいつもお世話になっております」

すごく言いなれない感じが出てしまった。
水平しえは顔をあげ、大きな丸い目を細めにっこりと微笑む。

「志筑先輩には大変親しくしていただいております。今後ともよろしくお願いします」

そう言うと水平しえは瑛理にアイコンタクトを取って去っていった。私はその後ろ姿をぼんやり見送ってしまった。

うーん、今のってすごく……なんていうか……。