離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる

「やっとこっち見てくれた! あの時も話してくれるようになるまで時間かかったなあ」

からかわれているのだ。私は怒りたいのか、あきれたいのかわからなくなってしまった。
あの頃から思っていたけど、この人って優しそうなのに本当は何を考えているか全然わからない! 
やっぱり私、苦手!

「さて、ネタばらしも終わったことだし、水平さん、ちょっと付き合ってくれない?」
「嫌です!」

私は即座に答えた。
昔を知っているこの人といると、私は猫をかぶっていられない。関わらないのが吉。いや、大吉だ。

「冷たいなあ。妹夫妻の結婚記念日が近いから一緒に花を選んでほしいのに」
「お断りします。そんなの店員に聞けばいいじゃないですか! 私より詳しいですよ!」
「園芸部員のきみに頼みたいのになあ」
「嫌です!」

この人全然引く気がない。ああ、面倒くさい!

「帰ります!」
「まあまあ、ほらそこの花屋だから。あの黄色い花ってなんだっけ」
「ガーベラですよ! って、私は帰ります!」

言い合う私と志筑課長。そんな私たちに気づくことなく、新婚夫婦の背中は遠くなり、雑踏の向こうへ消えてしまった。
私の内側に明るい光だけ残して。



(おしまい)