『俺、花ってあんまり詳しくないんだ。でも、綺麗だね。きみが世話してるんだろ?』
会うたびに何度も話しかけられ、会話を躱しきることもできず、結局私が折れた。
『ネモフィラ、青くて小さな花が春に咲きます』
『アネモネ、いろんな色があって育てやすい花です』
『撫子、私の好きな花です』
私の短い言葉に、彼は何倍もおつりがくるくらいの返事をしてくれた。
交流は彼のコーチ任期の半年くらいだったと思う。中学時代、私が一番喋ったのはあの大学生の男子だったことは間違いない。
大人になって会社の入社式でその彼が登壇するとは思わなかった。
ひと目でわかった。あの時の彼だ。
でもまさか、狙っている男性の兄だなんて。この会社の御曹司で跡継ぎだなんて。
志筑瑛理へのアプローチをやめようかと考えたけれど、あのいっときのことを覚えているとも考えられない。
何より私は大きく変わった。長い髪で顔を隠したぼそぼそ喋る陰気な女子中学生じゃないのだ。バレるはずがない。
……そう思っていたのに。
「水平さんが俺を避ける理由って、それでしょ? 今と違う自分を知られている相手って嫌だよね」
「あ、あの……別に……」
思い切り避けておいて、避けていないとは言えなかった。この男、全部わかったうえで私の反応を面白がっていたんだわ。
「っていうか水平さん、綺麗になったけど、よく見たらあの頃と変わってないね」
「は、はあ? そ、それは失礼じゃないですか?」
思わず素で言い返してしまうと、志筑誠がおかしそうにふき出した。
会うたびに何度も話しかけられ、会話を躱しきることもできず、結局私が折れた。
『ネモフィラ、青くて小さな花が春に咲きます』
『アネモネ、いろんな色があって育てやすい花です』
『撫子、私の好きな花です』
私の短い言葉に、彼は何倍もおつりがくるくらいの返事をしてくれた。
交流は彼のコーチ任期の半年くらいだったと思う。中学時代、私が一番喋ったのはあの大学生の男子だったことは間違いない。
大人になって会社の入社式でその彼が登壇するとは思わなかった。
ひと目でわかった。あの時の彼だ。
でもまさか、狙っている男性の兄だなんて。この会社の御曹司で跡継ぎだなんて。
志筑瑛理へのアプローチをやめようかと考えたけれど、あのいっときのことを覚えているとも考えられない。
何より私は大きく変わった。長い髪で顔を隠したぼそぼそ喋る陰気な女子中学生じゃないのだ。バレるはずがない。
……そう思っていたのに。
「水平さんが俺を避ける理由って、それでしょ? 今と違う自分を知られている相手って嫌だよね」
「あ、あの……別に……」
思い切り避けておいて、避けていないとは言えなかった。この男、全部わかったうえで私の反応を面白がっていたんだわ。
「っていうか水平さん、綺麗になったけど、よく見たらあの頃と変わってないね」
「は、はあ? そ、それは失礼じゃないですか?」
思わず素で言い返してしまうと、志筑誠がおかしそうにふき出した。



