志筑先輩にはっきり振られたとき、涙は出なかった。
私じゃ駄目だともうはっきりわかっていたから。先輩が好きなのは、昔から柊子さんただひとりで、その一途な想いに付け入る隙なんかなかった。
私がどんなに清楚に装っても、たとえ柊子さんより美人だったとしても、きっと志筑先輩の心は動かせなかった。
失恋してようやくわかった。私は割と本気で志筑先輩を好きだったのだろう。
父への復讐心で条件のいい人を選んだつもりだった。恋愛感情というより、ふさわしい人に目をつけただけ。
でも、実際はそうじゃなかった。水平しえは真剣に恋をしていたんだ。
失恋してしまったけれど、それだけは志筑先輩に感謝をしなければならない。
私の心は死んでいなかった。
一晩中遊び尽くして心の渇きをいやしていた大学時代は、結婚するならお金持ちと公言して、誰とも本気で恋愛しなかった。虚無的に恋人を渡り歩くだけだった。
だけど、私はまだ人を好きになれる。
終わった恋をこうして悔しく思ったり、寂しく見守ることができる。
幸福そうに寄り添って歩く志筑夫妻はまぶしくて、でも私には綺麗な希望の光景に見えた。
私もいつか、あんなふうにキラキラとした恋ができるのかな。
「水平さん」
明るい声は真横から聞こえた。
ぎょっとして見上げると、そこにいたのは志筑誠だ。
国外事業部一課長、志筑瑛理の兄にして、しづき株式会社の後継者であるその人。
「し、志筑課長~、どうしたんですかあ?」
私はひきつる笑顔を浮かべ、一生懸命愛想よく尋ねた。
はっきり言う。
私はこの志筑誠が大の苦手だ。避けられるものなら避けたい男ナンバーワン。
私じゃ駄目だともうはっきりわかっていたから。先輩が好きなのは、昔から柊子さんただひとりで、その一途な想いに付け入る隙なんかなかった。
私がどんなに清楚に装っても、たとえ柊子さんより美人だったとしても、きっと志筑先輩の心は動かせなかった。
失恋してようやくわかった。私は割と本気で志筑先輩を好きだったのだろう。
父への復讐心で条件のいい人を選んだつもりだった。恋愛感情というより、ふさわしい人に目をつけただけ。
でも、実際はそうじゃなかった。水平しえは真剣に恋をしていたんだ。
失恋してしまったけれど、それだけは志筑先輩に感謝をしなければならない。
私の心は死んでいなかった。
一晩中遊び尽くして心の渇きをいやしていた大学時代は、結婚するならお金持ちと公言して、誰とも本気で恋愛しなかった。虚無的に恋人を渡り歩くだけだった。
だけど、私はまだ人を好きになれる。
終わった恋をこうして悔しく思ったり、寂しく見守ることができる。
幸福そうに寄り添って歩く志筑夫妻はまぶしくて、でも私には綺麗な希望の光景に見えた。
私もいつか、あんなふうにキラキラとした恋ができるのかな。
「水平さん」
明るい声は真横から聞こえた。
ぎょっとして見上げると、そこにいたのは志筑誠だ。
国外事業部一課長、志筑瑛理の兄にして、しづき株式会社の後継者であるその人。
「し、志筑課長~、どうしたんですかあ?」
私はひきつる笑顔を浮かべ、一生懸命愛想よく尋ねた。
はっきり言う。
私はこの志筑誠が大の苦手だ。避けられるものなら避けたい男ナンバーワン。



