ほら、また志筑夫妻はお互いの顔を見つめ合っている。微笑んだ横顔がとろけそうに甘くて胸やけを通り越して胃痛がするわ。
特に志筑先輩、そのデレデレ顔はなんなのよ。会社ではスマートなできる男を気取ってるくせに、可愛い奥さんの前では大好きオーラ出まくり。
だらしないし情けないし、あーあ、なんであんな人を好きだったんだろ。

幸せなふたりの背中を見て歩く。こんなの自傷行為みたい。もう吹っ切っているつもりだけど、夫妻を見ればやっぱり面白くないのだから、私はそれなりに真面目に志筑瑛理に恋をしていたのだろう。



私の両親は離婚している。原因は父の学歴偏重教育だ。
父はひとり娘の私をエリートに育成すべく教育した。父の指示の下、母は幼いころから私をあちこちの評判のいい学習塾へ連れていった。余暇もすべて勉強。私は有名な遊園地も、家族旅行にも行ったことのない子どもだった。
流行りのおもちゃは買ってもらえず、参考書やドリルばかりが積みあがった部屋で子ども時代を過ごした。

結果、私は有名私立の中高一貫校へ合格したけれど、それと同時に母は家を出ていった。
それはそうだろう。私の塾代こそ父の稼ぎだったけれど、塾の送り迎えも外部テストの付き添いもすべて母。さらには私の成績が上がらなければ、父は母を怒鳴りつけた。
モラハラに耐えかねた母が、私と父を捨てても恨むことはできない。

中学にあがった私は大人に絶望し、周囲に壁を作って暮らした。
表向き父の言う通り勉強を続け、息を殺し従順に振る舞った。そして大学受験で、一世一代の反抗を実行した。

父の望んだ大学の受験に行かなかったのだ。